1.カネボウの不祥事…美白化粧品問題
(1)美白化粧品事件概要
2013年7月、カネボウ化粧品(および関連会社のリサージ、エキップ)で製造販売された、医薬部外品有効成分「ロドデノール」を配合した美白化粧品を使用し、まだらに白くなる白斑様症状の被害が相次いでいると発表、7月19日までに2,250人が重い症状を訴えていると発表した。
31日、症状を訴える人が8631人に達したと発表した。19日時点から約1800人増えた。このうちカネボウが重い症状だと確認したのは1100人余り増えて1828人にのぼった。確認作業は半分しか済んでおらず、被害がなお広がるのは確実だ。
19日時点では、症状や不安を訴える人は6808人で、このうち重い症状だという人は2250人いた。その後もカネボウや親会社の花王が状況を公表するたびに被害に気づく人が増えており、カネボウは被害を訴えた人を社員が個別に訪ねて症状を確認し、治療費の負担などに応じている。
(朝日新聞 2013年07月20日、31日朝刊等参照)
※株式会社カネボウ化粧品は、旧カネボウ株式会社から化粧品事業を切り離して2004年(平成16年)5月に発足した花王株式会社の完全子会社である。
(2)カネボウの対応と公表
①社長のお詫び
弊社が製造・販売した医薬部外品有効成分「ロドデノール」の配合された美白製品をお使いのお客さまに肌がまだらに白くなる白斑様症状が確認されたことを受け、2013年7月4日に自主回収を公表、当該製品の回収に努めてまいりました。発症されたお客さま、ご家族の皆さま、関係者の皆さまに多大なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを心よりお詫び申し上げます。
弊社は、「完治まで責任をもって対応する」という方針のもと、弊社「お客さま対応室」のメンバーがお客さまお一人おひとりを訪問してまいりました。これまでの訪問活動を通してお聞きしたお客さまの声を真摯に受け止めつつ、医療情報の提供、カバーメイクアップのアドバイスや商品提供など、日常生活のご負担を少しでも軽減するための活動につなげております。
また、治療法の開発に向けては、研究基金へ助成金を拠出してきたほか、医療機関等への研究支援、弊社グループ研究陣による研究などを鋭意すすめており、その成果につきましては、適宜公開してまいります。
再発防止に向けては、化粧品の安全性をより厳しく広範囲に確認する安全基準を制定、この基準にもとづいたモノづくりを実行しています。また、お客さまからお寄せいただいた声を確実にモニタリングする体制をつくり、全社をあげて品質向上に取り組んでいます。(以下略)
②白斑様症状確認数と和解状況
<2018年4月10日報告>
白斑様症状確認数および和解状況(2018年3月31日時点)
白斑様症状を確認した方 19,593人
和解合意された方(※)17,924人
※ 完治・回復前であっても、お客さまからのご要望に応じて和解した方の人数を含んでいます。当社が把握している完治・ほぼ回復された方は、11,936人です。
<2018年7月10日報告>
白斑様症状確認数および和解状況(2018年6月30日時点)
白斑様症状を確認した方 19,593人
和解合意された方(※) 18,025人
③対象製品回収数 最新データ
<2018年4月10日報告>
対象製品の回収数(2018年3月31日時点)
お客さまからの製品回収数 3月 11個 累計 703,608個
<2018年7月10日報告>
対象製品の回収数(2018年6月30日時点)
お客さまからの製品回収数 6月 18個 累計 703,696個
2.美白化粧品事件とカネボウ化粧品のコンプライアンス
(1)ダスキンの無認可食品添加物使用判決の指摘
◆不祥事のあった時にすぐにするべきこと
2006年6月9日大阪高裁は、ダスキンの元役員などに総額29億8708万円の支払いを命じたが、その中で、
「企業などにおいて製品などに不祥事が発生した場合などしたことを知った取締役は、損害回復に向けて直ちに公表するなどの積極的な措置を講じる注意義務があり、それを怠ると注意義務違反になる」
とした。
今日では、これが不祥事対応の基本である。
(2)国の対応
消費者庁の阿南久長官は24日の記者会見で「もっと早く公表すべきだった」と述べ、カネボウの対応を批判したのももっともである。
しかし、同庁には消費者からの相談も急増、中には顔が腫れるなど重い症状を訴える人もいたのであるから、カネボウへの行政手続法にもとづく行政指導がなぜ早くできなかったかも私は問題であると思う。
(3)専門家の意見も参考になる
東京工科大応用生物学部の前田憲寿教授は、
美白物質「ロドデノール」が「皮膚の特定部分で濃度が高くなり、継続使用することで影響が出た可能性がある」と指摘。
その上で「有効成分の認可で参考にされるメーカーの有効性試験は例数が少なく、第三者機関で有効性・安全性の検証が必要」
と話す。(産経新聞7月24日参照)
(4)医薬部外品検査の問題
問題となっている美白成分「ロドデノール」は、カネボウ化粧品が厚生労働省から「医薬部外品」として承認を受けている成分だが、医薬部外品審査は独立行政法人の医薬品医療機器総合機構(PMDA)が行い厚生労働省の薬事・食品衛生審議会で承認される。
この検査機関のPMDAが外国に比べて組織の脆弱さを指摘されている。
また、医薬品と違って公的な救済制度がなく、今回もカネボウが補償を全面的に負担するがそれでいいのか疑問があろう。(東洋経済オンライン2013/08/08参照)
(5)遅すぎた公表と回収がコンプライアンスのインテグリティに反する
カネボウ化粧品側の最初の被害情報の認知時期が2011年10月頃であり、化粧品利用者の症状と化粧品との因果関係について医師から指摘された時期が2012年10月頃であったのが事実らしい。
そうすると、カネボウ化粧品の企業内の情報共有やリスク対応の体制に不備があったのでなかろうか。
不祥事は上記のダスキン事件のように、積極的に公表すべき姿勢で組織が取り組まないと、ステークホルダーの信頼を得るの困難であろう。
それが結局は重い症状を訴える化粧品利用者の増加を招き、さらなる被害の拡大につながっていくのである。
不祥事防止の観点からも発生後の対応の観点からも、コンプライアンス(法令及び倫理の遵守)のインテグリティ(誠実性)に反する。
遅すぎた公表と回収では、化粧品や医薬品の検査で合格していても、この観点からは言い訳にならないことを肝に銘ずべきであろう。
3.和解の成立
(1)44人との和解が裁判所で成立(2018/08/06)
近畿や四国を中心とする女性44人が、約8億円の損害賠償を求めていた裁判で、カネボウ側が解決金を支払い、謝罪することで調停が成立した。
解決金の金額など不明であるが、カネボウ側は「メーカーとしての責任を重く受け止め、再発防止に努める」などと謝罪することを約束したようだ。
カネボウの美白化粧品による白斑被害については全国16か所で提訴されていて、これまでに今回を含め15か所で解決している。 MBSなど報道より一部引用