改正会社法の重要項目と内容(2019年改正)…企業統治の強化等 2021年3月1日施行

1.「会社法の一部を改正する法律」制定の経緯と概要

(1)経緯

「会社法の一部を改正する法律」が、令和元年12月4日に、令和元年法律第70号として成立した(同月11日公布)。
会社法は平成17年に制定され,平成26年に改正された。平成26年の改正後に,企業統治に係る制度の在り方について意見が多くあり,特に社外取締役を置くことの義務付け等の措置が議論になっていた。そこで、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図るため改正された。

なお、施行期日であるが、公布の日から1年6月以内の政令で定める日とされたが、株主総会資料の電子提供制度の創設等の一部の改正については,公布の日から3年6月以内の政令で定める日から施行される。実際の施行日は末尾の記載参照。

(2)概要

①株主に対して早期に株主総会資料を提供し,株主による議案等の検討期間を十分に確保するため,株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し,株主に対し当該ウェブサイトのアドレス等を書面で通知する方法により,株主に対して株主総会資料を提供することができる制度を創設する。

②株主提案権の濫用的な行使を制限するため,株主が同一の株主総会において提案することができる議案の数を制限する。

③取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ,また,株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため,上場会社等の取締役会は,取締役の個人別の報酬等に関する決定方針を定めなければならないこととするとともに,上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には,金銭の払込み等を要しないこととするなどの規定を設ける。

④役員等にインセンティブを付与するとともに,役員等の職務の執行の適正さを確保するため,役員等がその職務の執行に関して責任追及を受けるなどして生じた費用等を株式会社が補償することを約する補償契約や,役員等のために締結される保険契約に関する規定を設けることとしています。

⑤我が国の資本市場が全体として信頼される環境を整備するため,上場会社等に社外取締役を置くことを義務付ける。

⑥社債の管理を自ら行う社債権者の負担を軽減するため,会社から委託を受けた第三者が,社債権者による社債の管理の補助を行う制度(社債管理補助者制度)を創設する。

⑦企業買収に関する手続の合理化を図るため,株式会社が他の株式会社を子会社化するに当たって,自社の株式を当該他の株式会社の株主に交付することができる制度を創設することとしています。

2.株主総会に関する規律の見直し

(1)株主総会資料の電子提供制度の創設

①現行法の問題点

会社法上、公開会社については株主総会参考書類等の株主総会資料の発出は株主総会の日の2週間前までとされているので(会社法299条1項)、株主総会資料の提供から株主総会の日までの間隔が短く、投資家が議決権を行使するに当たって株主総会資料の内容を検討する期間が十分に確保されていないと投資家等から指摘されていた。

株式会社が、株主に対し、株主総会資料を、インターネッ卜を利用する方法によって提供するようになれば、株主総会資料を印刷したり、株主に郵送したりする時間や費用等が削減され、また、これまでよりも、早期に株主に対して株主総会資料が提供され、株主による議案等の検討期間が確保されるとともに、充実した内容の株主
総会資料が株主に提供されるようになることなども期待される。

会社法上、株主総会資料については、株主に対して書面により提供することが原則とされている。改正前の会社法上おいて、審議の時間等が特定の株主により提出された議案に多く割かれ、現行法でも、株主の個別の承諾を得ることにより、株式会社が、株主に対し、インターネットを利用する方法により提供することができるが(会社法299条2項、3項、301条、302条、437条、444条6項、会社法施行規則133条2項、会社計算規則133条2項、134条1項)、この方法については、上場会社においては、株主の数が多く、全ての株主の個別の承諾を得ることが困難であることなどから、余り利用されていない。

②改正法の内容

そこで、改正法においては、定款の定めに基づき、取締役が、株主総会資料の内容である情報を自社のウェブサイト等に掲載し、株主に対し、そのウェブサイトのアドレス等を株主総会の招集通知により通知した場合には、株主の個別の承諾を得ていないときであっても、取締役は、株主に対し、株主総会資料を適法に提供したものとする株主総会資料の電子提供制度を新たに設けることとしている(会社法325条の2~325条の7等)。

株主総会資料の電子提供制度において、株主総会資料の内容である情報のウェブサイトヘの掲載を開始する日については、公開会社についての株主総会の招集通知の発出の期限である株主総会の日の2週間前の日よりも前倒しし、株主総会の日の3週間前の日又は招集の通知日と認められる場合には、株式会社は、株主提案を拒絶することができることとを発した日のいずれか早い日としている(同法325条の3第1項)。

そして、整備法において、類型的に株式の売買が頻繁に行われることが想定される上場会社等の振替株式を発行する会社には、株主総会資料の電子提供制度を利用することを義務付けることとするとともに(社債、株式等の振替に関する法律159条の2第1項)、株主総会資料の電子提供制度に関する改正規定が施行される日において振替株式を発行している会社は、当該日をその定款の変更が効力を生ずる日とする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなすこととしている(整備法による振替法の一部改正に伴う経過措置。整備法10条2項)。

他方で、改正法においては、インターネットを利用することが困難である株主の利益に配意し、株主は、株式会社に対し、株主総会資料に記載すべき事項を記載した書面の交付を請求することができる(会社法325条の5第1項)。

(2)株主提案権の制限

近年、一人の株主により膨大な議案が提出されるなど、株主提案権で濫用的に行使される事例が見られる。株主提案権の濫用的な行使により、株主総会において、審議の時同等が特定の株主により提出された議案に多く割かれ、株主総会の意思決定機関としての機能が害されたり、株式会社における検討等に要するコストが増加したりすることなどが弊害として指摘されていた。

そこで、改正法においては、株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置として、取締役会設置会社の株主が議案要領通知請求(会社法305条1項)をする場合において、当該株主が同一の株主総会において提出しようとする議案の数が10を超えるときは、10を超える数に相当することとなる数の議案については、当該取締役会設置会社は、議案要領通知請求を拒絶することができることとしている(同条4項、5項)。

そして、役員等の選任若しくは解任等又は定款の変更に関する2以上の議案については、議案の数の取扱いを定めることとしている(同条4項)。

なお、改正法案においては、「専ら人の名誉を侵害するなどの不当な目的」と認められる場合には、株式会社は、株主提案を拒絶することができることとしていたが、国会における法案審議において、不当な目的等による議案の提案を制限する規定の新設に係る部分を削除する旨の修正がされた。

3.会社法の機関に関する改正事項

(1)取締役の報酬等

①取締役の報酬決定

会社法上、株式会社(指名委員会等設置会社を除く。)においては、取締役の報酬等の額等を定款又は株主て総会の決議によって定めることとされている(会社法361条1項)。

この規定は、取締役又は取締役会によるいわゆるお手盛りを防止するための規定であると一般的に理解されており、取締役の報酬等は、定款又は株主総会の決議により概括的に定めれば足り、取締役の個人別の報酬等の内容についてまで具体的に定める必要はないとされている。

しかし、改正法では、企業統治の強化の観点から、取締役の報酬等の内容の決定手続等に関する透明性を向上させるため、上場会社等の取締役会は、定款又は株主総会の決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められない場合には、その内容についての決定方針を定めなければならないこととし、また、取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権等を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならない(会社法361条1項、7項)。

また、株式会社が業績等に連動した報酬等を適正かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため、上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には、募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しない(会社法202条の2)。

② 役員等の補償契約

役員等が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用(いわゆる防御費用)や、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失(いわゆる賠償金や和解金)の全部又は一部を、株式会社が当該役員等に対して補償すること(以下「会社補償」という。)には、役員等として優秀な人材を確保するとともに、役員等がその職務の執行に関し第三者に生じた損害を賠償する責任を負うことを過度に恐れることによりその職務の執行が萎縮することがないように役員等に対して適切なインセンティブを付与するという意義が認められる。
そこで、改正法においては、会社補償が適切に運用されるように、補償契約を締結するための手続や補償をすることができる範囲等を明確にするなど、会社補償に関する規定を設けることとしている(会社法430条の2)。

③ 役員等のために締結される保険契約

いわゆる会社役員賠償責任保険(D&O保険)には、役員等として優秀な人材を確保するとともに、役員等がその職務の執行に関し損害を賠償する責任を負うことを過度に恐れることによりその職務の執行が萎縮することがないように役員等に対して適切なインセンティブを付与するという意義が認められており、D&O保険は、既に我が国においても上場会社を中心に広く普及している。
これらの保険契約に関する規定を会社法に設け、当該契約については利益相反取引に関する規律を適用しないものとした上で、保険契約の内容や必要性に応じてそれに代わる適切な規定を設ける必要があることから、改正法においては、これらの保険が適切に運用されるように契約の締結に必要な手続等を明確にするなど、役員等のために締結される保険契約に関する規定を設けることとしている(会社法430条の3)。

(2)社外取締役の活用等

①業務執行の社外取締役への委託

会社法上、「業務執行取締役」でないことが社外取締役の要件とされているため(会社法2条15号イ)、取締役が「当該株式会社の業務を執行した」場合には、社外取締役の要件を満たさない。

改正法においては、マネジメントーバイアウト(MBO)の場面や親子会社間の取引の場面など、株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができることとし、委託された業務の執行をすることによって社外取締役の要件を満たさないこととはならないこととしている(会社法348条の2)。

②社外取締役を置くことの義務付け

社外取締役については、我が国の資本市場の担い手である機関投資家及び金融商品取引所等から、コーポレートーガバナンスを実効的に機能させ、我が国の資本市場が信頼される環境を整備する観点から、上場会社等には、最低限の基本的な要件として、画一的に、社外取締役を置くことを義務付けるべきであると指摘されていた。
そこで、改正法においては、我が国の資本市場が信頼される環境を整備し、上場会社等については、社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信するため、上場会社等は社外取締役を置かなければならないこととしている(会社法327条の2)。

4.社債についての会社法改正

(1)社債の管理

社債の管理を自ら行う社債権者の負担を軽減するため、会社が、社債を発行する場合において、社債管理者を設置することを要しないときは、社債管理者よりも権限、義務及び責任が限定されるなどした社債管理補助者を設置し、社債権者のために、社債の管理の補助を行うことを委託することができる社債管理補助者制度を新たに設けることとしている(会社法676条7号の2、8号の2、681条1号、714条の2~714条の7、717条2項、3項、718条1項、4項、737条1項等)。

(2)社債権者集会の決議により、社債の全部について、その債務の全部又はI部の免除をすることができることを明確化するため、会社法706条1項1号に、当該社債の全部についてするその債務の免除を追加することとしている(同法706条1項1号)。

(3)会社法上、株主総会については、株主の全員が書面又は電磁的記録により同意をしたときにおける株主総会の決議の省略に関する規定(同法319条)が設けられていることも踏まえ、社債権者集会の目的である事項について提案がされた場合において、当該提案につき議決権者の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の社債権者集会の決議があったものとみなすこととし、かつ、社債権者集会の決議についての裁判所の認可を受けることを要しないこととしている(同法735条の2)。

5.株式交付

買収会社がその株式を対価としてより円滑に被買収会社を子会社とすることができるようにするため、買収会社が被買収会社をその子会社とするために被買収会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として買収会社の株式を交付することができる株式交付制度を新たに設けることとしている(会社法2条32号の2、774条の2~774条の‥1111一、816条の2~816条の10等)。

6.その他の改正事項

(1)株式会社の取締役等の責任を追及する訴え

株式会社が、当該株式会社の取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解をするには、監査役設置会社にあっては各監査役、監査等委員会設置会社にあっては各監査等委員、指名委員会等設置会社にあっては各監査委員の同意を得なければならないこととしている(会社法849条の2)。

(2)株主による議決権行使書面等の閲覧等の請求

株主が議決権行使書面等の閲覧等の請求をする場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならないこととし、また、株式会社が、当該請求を拒むことができる場合(当該請求の拒絶事由)を明文化することとしている(会社法311条4項、5項等)。

(3)新株予約権に関する登記

新株予約権に関する登記事項についての規律を改め、募集新株予約権について募集事項として募集新株予約権の払込金額の算定方法を定めた場合であっても、原則的には、募集新株予約権の払込金額を登記すれば足りることとし、例外的に、登記の申請の時までに募集新株予約権の払込金額が確定しいないときは、当該算定方法を登記しなければならない(会社法911条3項)。

(4)会社の支店の所在地における登記を廃止(会社法930条)。

(5)成年被後見人等についての取締役等の欠格条項を削除(会社法39条5項、331条―項、331条の2、335条1項、402条4項、478条8項)。

(以上、法務省民事局HP,法律のひろば2020/03等参照)

なお、令和3年3月1日から施行され、株主総会資料の電子提供制度の創設等の一部の改正のみ令和4年9月1日から施行された。

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