1.2016 教科書会社の教科書謝礼問題とコンプライアンス体制

平成28年になってから、教科書各社が検定中の教科書を教員らに見せ、謝礼を渡していた問題が明らかになった。事態を重く見た文部科学省が各社に調査報告を求めたものを公取委に提供した。

公取委によって、義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和三十八年十二月二十一日法律第百八十二号)に基づき文部科学省が制定した「教科用図書検定規則実施細則」や自主規制である教科書会社ほとんどが加盟する一般社団法人教科書協会制定の「教科書宣伝行動基準」に抵触する行為と判断され、公正取引委員会から次のような警告が平成28年7月6日に発せられた。

各社の担当者は平成24年以降、検定中の教科書を教員らに見せ、現金や図書カードなどの金品を渡していた。各社は公取委に「教科書について助言を受けたことへの対価」などと説明したが、公取委は教科書の選定を働きかける狙いがあったと判断した。
独占禁止法違反(不当な利益による顧客誘引)の恐れで警告されたのは、光村図書出版、教育出版、大日本図書、教育芸術社、三省堂、数研出版、学校図書(いずれも東京)と、新興出版社啓林館(大阪)である。

日本文教出版(大阪)も金品の提供を報告していたが、平成22年には提供をやめており、警告の対象にはならなかった。
これを踏まえて、平成28年末には、文部科学省の処分が出されることになろう(当方で平成28年9月末に担当官に確認)。

◆申請図書等の公開(規則第18条関係)に関する行政指導内容

「申請者は,文部科学省が申請図書の検定審査の結果を公表するまでは,当該申請図書並びに当該申請図書の審査に関し文部科学大臣に提出した文書及び文部科学大臣から通知された文書について,その内容が当該申請者以外の者の知るところとならないよう,適切に管理しなければならない。」

なお、さらに問題は高校用の教科書まで及び、高校教科書の発行会社が高校へ金品提供していた。

文部科学省の都道府県教委への調査依頼で判明した。

大修館書店、教育芸術社、啓林館、日本文教出版、第一学習社、明治書院の計6社で、平成23年以降、40都道府県の271校に教材などの金品を提供し、総額は541件で2000万円相当となった。

各教委は採択への影響を否定したが、文科省は公正な採択を求める通知を出した。

2.中川総合法務オフィスで実施したS教科書会社の研修内容

教科書会社からの要望も踏まえ、これまで実際に行ったコンプライアンス研修の経験を生かして実施する。

教科書会社のコンプライアンス研修は以下の内容で実施するべきであろう。

※利害関係者との接触に関する国家公務員倫理法・国家公務員倫理規程や地方自治体の同規程をまず知るのが最低限である。

■企業不祥事を2度と起こさないコンプライアンス態勢再構築(研修時間により演習量増減)

第1部 企業のコンプライアンス態勢の基本…コーポレートガバナンスを強く求める時代の変化

(1)コンプライアンスは企業に対する社会的要請に応えるため

(2)コンプライアンス理論と構造をCOSOキューブの歴史から理解する

(3)企業役職員必須のコンプライアンス上重要法令(会社法・金商法・業法等)基礎知識

第2部 コンプライアンスと公益通報者保護法等を踏まえた企業内部統制方法

(1)会社法・金商法・中央官庁ガイドライン等を参考にした現行法秩序下での内部統制

(2)間違いだらけの公益通報者保護法の解釈と企業ヘルプラインの効果的設置方法

(3)コンプライアンス組織改革の決めて:企業管理職に求められるリーダーシップ像

第3部 不祥事発生時の対応

(1)最も重要なものはintegrity(誠実性・高貴性・廉潔性等)による初期対応と公表

(2)マスコミ対応5原則とイニシアティブある記者会見の運営実務及びその後の対応

(3)監督官庁との折衝の仕方

第4部 企業の不祥事再発を防止する重要項目

【不正のトライアングル】等リスク管理フレームワークの活用

(1) 会計事務に従事する職員の基本リスク管理

(2)不正経理を発見した場合の内部通報システムの確立について

(3)コンプライアンス違反の処分基準の明示と懲戒処分の対応

(4)新部署の設置「監査部、コンプライアンス改善委員会」などの名称

(5)エシックスカード・行動規範策定のすすめ(JALフィロソフィ等参考)

(6)研修を踏まえて職場と自己のチェックリスト作成

第5部 企業コンプライアンスに必要不可欠な企業倫理

ステークホルダーである消費者目線で製品を作りサービスを提供する。倫理を基本から掘り起こして研修する

第6部 個別テーマ

(1)不正競争防止法は独禁法と並ぶ重要な経済法に

公正競争がますます必要になるとともに社内の機密保持はノウハウとして強く保護

(2)脱税リスク

(3)知的財産権違反の厳罰化とブランドイメージの損傷する

(4)個人情報の保護とマイナンバー法の遵守

(5)新しい労使関係構築

ハラスメント防止とダイバーシティ経営

(6)グローバル経営

競争コンプライアンス(特にEU)、カントリーリスク

(7)反社会的勢力との関係遮断

(8)クレーム対応

クレーム対応の仕方が悪いというクレームが来る時代

(9)インサイダー取引規制

(10)ブラック企業かホワイト企業か

(実施時間は2~3時間や1日等のものも可能、文科省など監督官庁や公取委の指導内容も取り上げる)

3.2023年 大日本図書の校長・教育長など接待による不公正な教科書採択問題発生

(1) 文科省の方針(令和5年1月13日、永岡桂子文部科学大臣の記者会見)

記者)
 大阪府藤井寺市の教科書選定を巡る問題でお伺いします。この問題を受けて、市教委は大日本図書の教科書の採択替えを行うことを決めました。全国初のケースとなりますが、大臣の受け止めをお願いします。また、大日本図書の接待は長年続いていたことも明らかになりましたが、文科省の今後の対応をお聞かせください。

大臣)
 藤井寺市におきまして、教科書の採択替えの手続が開始された件につきましては、事務方から報告を受けて承知をしております。教科書は全ての児童生徒が必ず使用するものでございまして、その採択には高い公正性と透明性が求められることから、採択の公正性に疑念を生じさせる事案が発生し、このような事態となったことは極めて遺憾であると考えております。採択替えにつきましては、採択権者であります藤井寺市教育委員会におきまして判断されたものと承知をしておりまして、文部科学省といたしましては、今後の対応を注視をするとともに、必要に応じて助言をしてまいりたいと考えております。また、文部科学省から当該発行者に対しましても、速やかに調査報告を指示するとともに、過去の経緯も含めましてしっかりと調査をするよう指導しているところでございます。詳細な調査結果を踏まえて、厳正に対応してまいりたいと考えているところです。

この結果、大日本図書に、3月28日付で、「教科用図書検定規則第7条第2項の規定に基づき令和5年度において教科用図書の検定審査不合格の対象とする図書の種目として中学校用教科用図書の数学及び理科、保健体育とする」旨の通知がなされた。

(2)調査報告書(大日本図書株式会社特別調査委員会)2023年1月公表

 この調査報告書は、外部の弁護士などで構成されており、不正な営業方法が用意周到になされ、驚くべき現場の校長や教育長の職業倫理のなさがわかる。これを詳細に読むと、このような先生などの下で勉強している子供が本当に可哀そうになる。

 調査報告書に併せて、代表取締役社長等の引責辞任も次のように会社から公表されている。2月17日公表文書

https://www.dainippon-tosho.co.jp/news/2023/0126_compliance.html