不祥事予防のプリンシプル、不祥事対応のプリンシプル(日本取引所自主規制法人)

※下記の不祥事予防のプリンシプル、不祥事対応のプリンシプルはそれぞれ、日本取引所自主規制法人が上場企業における企業不祥事防止と発生時の対応(危機管理)のために2018年3月30日、2016年2月24日に公表したものである。抽象的でポイントのみであるが、海外展開をしている大企業が主に対象となっている。一般の中堅企業・新興企業にも参考になることが多いであろう。そこで、その趣旨に適うように当サイトでも引用する。不祥事予防に向けた取組事例集2019 年 11 月 7 日不祥事予防のプリンシプルに関する意見交換会(経営法友会 有志)の企業における取組事例集が別にあるが生の声が聞けて有益である。なお、ゴシック体・赤字体等脚色は当職である。コンプライアンス・リスク管理上重要なので強調した。

(youtubeでこのルールを分かり易く解説した動画を最後に掲載したので、理解を深めるのに参考にされたい)

1.不祥事予防のプリンシプル

上場会社における不祥事予防のプリンシプル
~企業価値の毀損を防ぐために~
上場会社は、不祥事(重大な不正・不適切な行為等)を予防する取組みに際し、その実効性を高めるため本プリンシプルを活用することが期待される。この取組みに当たっては、経営陣、とりわけ経営トップによるリーダーシップの発揮が重要である。

[原則1] 実を伴った実態把握
自社のコンプライアンスの状況を制度・実態の両面にわたり正確に把握する。明文の法令・ルールの遵守にとどまらず、取引先・顧客・従業員などステークホルダーへの誠実な対応や、広く社会規範を踏まえた業務運営の在り方にも着眼する。その際、社内慣習や業界慣行を無反省に所与のものとせず、また規範に対する社会的意識の変化にも鋭敏な感覚を持つ。これらの実態把握の仕組みを持続的かつ自律的に機能させる。

[原則2] 使命感に裏付けられた職責の全う
経営陣は、コンプライアンスにコミットし、その旨を継続的に発信し、コンプライアンス違反を誘発させないよう事業実態に即した経営目標の設定や業務遂行を行う。
監査機関及び監督機関は、自身が担う牽制機能の重要性を常に意識し、必要十分な情報収集と客観的な分析・評価に基づき、積極的に行動する。これらが着実に実現するよう、適切な組織設計とリソース配分に配意する。

[原則3] 双方向のコミュニケーション
現場と経営陣の間の双方向のコミュニケーションを充実させ、現場と経営陣がコンプライアンス意識を共有する。このためには、現場の声を束ねて経営陣に伝える等の役割を担う中間管理層の意識と行動が極めて重要である。こうしたコミュニケーションの充実がコンプライアンス違反の早期発見に資する。

[原則4]不正の芽の察知と機敏な対処
コンプライアンス違反を早期に把握し、迅速に対処することで、それが重大な不祥事に発展することを未然に防止する。早期発見と迅速な対処、それに続く業務改善まで、一連のサイクルを企業文化として定着させる。

[原則5] グループ全体を貫く経営管理
グループ全体に行きわたる実効的な経営管理を行う。管理体制の構築に当たっては、自社グループの構造や特性に即して、各グループ会社の経営上の重要性や抱えるリスクの高低等を踏まえることが重要である。特に海外子会社や買収子会社にはその特性に応じた実効性ある経営管理が求められる。

[原則6] サプライチェーンを展望した責任感
業務委託先や仕入先・販売先などで問題が発生した場合においても、サプライチェーンにおける当事者としての役割を意識し、それに見合った責務を果たすよう努める。

2.不祥事対応のプリンシプル

上場会社における不祥事対応のプリンシプル ~確かな企業価値の再生のために~

企業活動において自社(グループ会社を含む)に関わる不祥事又はその疑義が把握された場合には、当該企業は、必要十分な調査により事実関係や原因を解明し、その結果をもとに再発防止を図ることを通じて、自浄作用を発揮する必要がある。その際、上場会社においては、速やかにステークホルダーからの信頼回復を図りつつ、確かな企業価値の再生に資するよう、本プリンシプルの考え方をもとに行動・対処することが期待される。

① 不祥事の根本的な原因の解明

不祥事の原因究明に当たっては、必要十分な調査範囲を設定の上、表面的な現象や因果関係の列挙にとどまることなく、その背景等を明らかにしつつ事実認定を確実に行い、根本的な原因を解明するよう努める。
そのために、必要十分な調査が尽くされるよう、最適な調査体制を構築するとともに、社内体制についても適切な調査環境の整備に努める。その際、独立役員を含め適格な者が率先して自浄作用の発揮に努める。

② 第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保

内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合、当該企業の企業価値の毀損度合いが大きい場合、複雑な事案あるいは社会的影響が重大な事案である場合などには、調査の客観性・中立性・専門性を確保するため、第三者委員会の設置が有力な選択肢となる。そのような趣旨から、第三者委員会を設置する際には、委員の選定プロセスを含め、その独立性・中立性・専門性を確保するために、十分な配慮を行う。
また、第三者委員会という形式をもって、安易で不十分な調査に、客観性・中立性の装いを持たせるような事態を招かないよう留意する。

③ 実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行

再発防止策は、根本的な原因に即した実効性の高い方策とし、迅速かつ着実に実行する。
この際、組織の変更や社内規則の改訂等にとどまらず、再発防止策の本旨が日々の業務運営等に具体的に反映されることが重要であり、その目的に沿って運用され、定着しているかを十分に検証する。

④ 迅速かつ的確な情報開示

不祥事に関する情報開示は、その必要に即し、把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。この際、経緯や事案の内容、会社の見解等を丁寧に説明するなど、透明性の確保に努める。

3.不祥事予防のプリンシプルの各原則解説

[原則1] 実を伴った実態把握

1-1 自社のコンプライアンスの状況を正確に把握することが、不祥事予防の第一歩となる。コンプライアンスに係る制度やその運用状況はもとより、自社の企業風土や社内各層への意識の浸透度合い等を正確に把握することにより、自社の弱点や不祥事の兆候を認識する。その際、現状のコンプライアンス体制が問題なく運用されているとの思い込みを捨て、批判的に自己検証する。
1-2 コンプライアンスは、明文の法令・ルールの遵守だけに限定されるものではなく、取引先・顧客・従業員などステークホルダーへの誠実な対応を含むと理解すべきである。さらに、広く社会規範を意識し、健全な常識やビジネス倫理に照らして誠実に行動することまで広がりを持っているものである。
こうした規範に対する社会的受け止め方は時代の流れに伴い変化する部分がある。社内で定着している慣習や業界慣行が、実は旧弊やマンネリズムに陥っていたり、変化する社会的意識と乖離したりしている可能性も意識しつつ、社内・社外の声を鋭敏に受け止めて点検を行うことが必要となる。
1-3 本来は、通常の業務上のレポーティング・ラインを通じて、正確な情報が現場から経営陣に確実に連携されるメカニズムが重要である。一方、本来機能すべきレポーティング・ラインが目詰まりした場合にも備え、内部通報や外部からのクレーム、株主・投資者の声等を適切に分析・処理し、経営陣に正確な情報が届けられる仕組みが実効性を伴って機能することが重要である。
こうした実態把握の仕組みが、社内に定着し、持続的・自律的に機能していくことが重要である。
1-4 なお、自社の状況や取組みに関する情報を対外発信し、外部からの監視による規律付けを働かせることも効果的な取組みの一つとして考えられる。

(不祥事につながった問題事例)
 検査工程や品質確認等の業務において、社内規則に反する旧来の慣行を漫然と継続し、違反行為を放置
 労働基準を超えた長時間労働の常態化、社会規範を軽視したハラスメントの放置の結果、社会問題にまで波及
 内部告発が隠蔽され、上位機関まで報告されないなど、内部通報制度の実効性が欠如

[原則2] 使命感に裏付けられた職責の全う

2-1 コンプライアンスに対する経営陣のコミットメントを明確化し、それを継続的に社内に発信することなど様々な手段により全社に浸透させることが重要となる。
コンプライアンスへのコミットメントの一環として経営陣は、社員によるコンプライアンスの実践を積極的に評価し、一方でコンプライアンス違反発覚時には、経営陣を含め責任の所在を明確化し的確に対処する。実力とかけ離れた利益目標の設定や現場の実態を無視した品質基準・納期等の設定は、コンプライアンス違反を誘発する。
2-2 監査機関である監査役・監査役会・監査委員会・監査等委員会と内部監査部門、及び監督機関である取締役会や指名委員会等が実効性を持ってその機能を発揮するためには、必要十分な情報収集と社会目線を踏まえた客観的な分析・評価が不可欠であり、その実務運用を支援する体制の構築にも配意が必要である。また、監査・監督する側とされる側との間の利益相反を的確にマネジメントし、例えば、実質的な「自己監査」となるような状況を招かないよう留意する。
監査・監督機関は、不祥事発生につながる要因がないかを能動的に調査し、コンプライアンス違反の予兆があれば、使命感を持って対処する。
監査・監督機関の牽制機能には、平時の取組みはもちろんのこと、必要な場合に経営陣の適格性を判断する適切な選任・解任プロセスも含まれる。

(不祥事につながった経営陣に係る問題事例)
 経営トップが事業の実力とかけ離れた短期的目線の利益目標を設定し、その達成を最優先課題としたことで、役職員に「コンプライアンス違反をしてでも目標達成をすべき」との意識が生まれ、粉飾決算を誘発
 経営陣や現場マネジメントが製造現場の実態にそぐわない納期を一方的に設定した結果、現場がこれに縛られ、品質コンプライアンス違反を誘発
(不祥事につながった監査・監督機関に係る問題事例)
 元財務責任者(CFO)が監査担当部門(監査委員)となり、自身が関与した会計期間を監査することで、実質的な「自己監査」を招き、監査の実効性を阻害
 指名委員会等設置会社に移行するも、選解任プロセスにおいて経営トップの適格性を的確に評価・対処できないなど、取締役会、指名委員会、監査委員会等の牽制機能が形骸化
(不祥事につながった組織設計・リソース配分に係る問題事例)
 製造部門と品質保証部門で同一の責任者を置いた結果、製造部門の業績評価が品質維持よりも重視され、品質保証機能の実効性を毀損
 品質保証部門を実務上支援するために必要となるリソース(人員・システム)が不足

[原則3] 双方向のコミュニケーション

3-1 現場と経営陣の双方向のコミュニケーションを充実させることと、双方のコンプライアンス意識の共有を図ることは、一方が他方を支える関係にあり、両者が相俟って不祥事の予防につながる。
双方向のコミュニケーションを充実させる際には、現場が忌憚なく意見を言えるよう、経営陣が現場の問題意識を積極的に汲み上げ、その声に適切に対処するという姿勢を明確に示すことが重要となる。
3-2 現場と経営陣をつなぐハブとなる中間管理層は、経営陣のメッセージを正確に理解・共有して現場に伝え根付かせるとともに、現場の声を束ねて経営陣に伝えるという極めて重要な役割を担っている。このハブ機能を十全に発揮させるためには、経営陣が、その役割を明確に示し、評価するとともに、中間管理層に浸透させるべきである。
双方向のコミュニケーションが充実すれば、現場の実態を無視した経営目標の設定等を契機とした不祥事は発生しにくくなる。
3-3 これらが定着することで、現場のコンプライアンス意識が高まり、現場から経営陣への情報の流れが活性化して、問題の早期発見にも資する。

(不祥事につながった問題事例)
 経営陣が各部門の実情や意見を踏まえず独断的に利益目標・業績改善目標を設定し、各部門に達成を繰り返し求めた結果、中間管理層や現場のコンプライアンス意識の低下を招き、全社的に職責・コンプライアンス意識の希薄化を招来
 経営陣から実態を無視した生産目標や納期の必達を迫られても現場は声を上げられず、次第に声を上げても仕方がないという諦め(モラルの低下)が全社に蔓延
 経営陣が「現場の自立性」を過度に尊重する古い伝統に依拠したことで、製造現場と経営陣の間にコミュニケーションの壁を生じさせ、問題意識や課題の共有が図れない企業風土を醸成。その結果、経営陣は製造現場におけるコンプライアンス違反を長年にわたり見過ごし、不祥事が深刻化

[原則4]不正の芽の察知と機敏な対処

4-1 どのような会社であっても不正の芽は常に存在しているという前提に立つべきである。不祥事予防のために重要なのは、不正を芽のうちに摘み、迅速に対処することである。
このために、原則1~3の取組みを通じ、コンプライアンス違反を早期に把握し、迅速に対処する。また、同様の違反や類似の構図が他部署や他部門、他のグループ会社にも存在していないかの横展開を行い、共通の原因を解明し、それに即した業務改善を行う。
こうした一連のサイクルが企業文化として自律的・継続的に機能することで、コンプライアンス違反が重大な不祥事に発展することを未然防止する。この取組みはコンプライアンス違反の発生自体を抑止する効果も持ち得る。
4-2 経営陣がこうした活動に取り組む姿勢や実績を継続的に示すことで、全社的にコンプライアンス意識を涵養できる。また、このような改善サイクルの実践が積極的に評価されるような仕組みを構築することも有益である。
4-3 なお、趣旨・目的を明確にしないコンプライアンス活動や形式のみに偏ったルールの押付けは、活動の形骸化や現場の「コンプラ疲れ」を招くおそれがある。事案の程度・内容に即してメリハリをつけ、要所を押さえた対応を継続して行うことが重要である。

(不祥事につながった問題事例)
 社内の複数ルートからコンプライアンス違反に係る指摘がなされても、調査担当部署が表面的な聴き取り対応のみで「問題なし」と判断。違反行為の是正や社内展開等を行わなかった結果、外部からの指摘を受けて初めて不祥事が露見し、企業価値を大きく毀損
 過去の不祥事を踏まえて再発防止策を講じたものの、的を射ない機械的な対応に終始したことで、現場において「押し付けられた無駄な作業」と受け止められる。当該作業が次第に形骸化し、各現場の自律的な取組みとして定着しなかった結果、同種不祥事の再発に至る

[原則5] グループ全体を貫く経営管理

5-1 不祥事は、グループ会社で発生したものも含め、企業価値に甚大な影響を及ぼす。多数のグループ会社を擁して事業展開している上場会社においては、子会社・孫会社等をカバーするレポーティング・ライン(指揮命令系統を含む)が確実に機能し、監査機能が発揮される体制を、本プリンシプルを踏まえ適切に構築することが重要である。
グループ会社に経営や業務運営における一定程度の独立性を許容する場合でも、コンプライアンスの方針についてはグループ全体で一貫させることが重要である。
5-2 特に海外子会社や買収子会社の経営管理に当たっては、例えば以下のような点に留意が必要である。
 海外子会社・海外拠点に関し、地理的距離による監査頻度の低下、言語・文化・会計基準・法制度等の違いなどの要因による経営管理の希薄化など
 M&Aに当たっては、必要かつ十分な情報収集のうえ、事前に必要な管理体制を十分に検討しておくべきこと、買収後は有効な管理体制の速やかな構築と運用が重要であることなど

(不祥事につながった問題事例)
 海外子会社との情報共有の基準・体制が不明確で、子会社において発生した問題が子会社内で内々に処理され、国内本社に報告されず。その結果、問題の把握・対処が遅れ、企業価値毀損の深刻化を招く
 許容する独立性の程度に見合った管理体制を長期にわたり整備してこなかった結果、海外子会社のコントロール不全を招き、子会社経営陣の暴走・コンプライアンス違反を看過
 買収先事業が抱えるコンプライアンス違反のリスクを事前に認識していたにもかかわらず、それに対処する管理体制を買収後に構築しなかった結果、リスク対応が後手に回り、買収元である上場会社に対する社会的批判を招く

[原則6] サプライチェーンを展望した責任感

6-1 今日の産業界では、製品・サービスの提供過程において、委託・受託、元請・下請、アウトソーシングなどが一般化している。このような現実を踏まえ、最終顧客までのサプライチェーン全体において自社が担っている役割を十分に認識しておくことは、極めて有意義である。
自社の業務委託先等において問題が発生した場合、社会的信用の毀損や責任追及が自社にも及ぶ事例はしばしば起きている。サプライチェーンにおける当事者としての自社の役割を意識し、それに見合った責務を誠実に果たすことで、不祥事の深刻化や責任関係の錯綜による企業価値の毀損を軽減することが期待できる。
6-2 業務の委託者が受託者を監督する責任を負うことを認識し、必要に応じて、受託者の業務状況を適切にモニタリングすることは重要である。
契約上の責任範囲のみにとらわれず、平時からサプライチェーンの全体像と自社の位置・役割を意識しておくことは、有事における顧客をはじめとするステークホルダーへの的確な説明責任を履行する際などに、迅速かつ適切な対応を可能とさせる。

(不祥事につながった問題事例)
 外部委託先に付与したセキュリティ権限を適切に管理しなかった結果、委託先従業員による情報漏えいを招き、委託元企業の信頼性を毀損
 製品事故における法的な責任に加え、サプライチェーンのマネジメントを怠り、徹底的な原因解明・対外説明を自ら果たさなかった結果、ステークホルダーの不信感を増大させ、企業の信頼性を毀損
 建築施工における発注者、元請、下請、孫請という重層構造において、極めて重要な作業工程におけるデータの虚偽が発覚したにもかかわらず、各当事者間の業務実態を把握しようとする意識が不十分であった結果、有事における対外説明・原因究明等の対応に遅れをとり、最終顧客や株主等の不信感を増大
 海外の製造委託先工場における過酷な労働環境について外部機関より指摘を受けるまで意識が薄かった結果、製品の製造過程における社会的問題が、当該企業のブランド価値を毀損

※以上、Japan Exchange Group HP参照

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