1.コンプライアンスが「本物」になるまでの道標

しばしば、不祥事を起こした企業の記者会見で社長や責任者が、「このたびは、皆さまにご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。今後はコンプライアンスを重視した経営を行い、二度とこのような不祥事のない組織にします。」と謝罪して頭を一斉に下げるときに、巷間にコンプライアンスという言葉が流れる。

確かに、「コンプライアンスを重視して」という言葉には間違いではないが、この時に、どのような具体的なイメージをもってそう考えたのかが問題で在る。厳しい法令順守を職員に迫るのであればそれが仕事の「過剰な足かせ」と感じられることもある。またこれまでのたくさんの社内規則、チェックリストやマニュアルがさらに増加して細分化された仕事の進め方では、迅速を第一にするビジネス現場では、やり辛くてしょうがなかろう。そこで、コンプライアンスは面白くないとなる。

やりたくない、面白くないとくれば、次に来るのは、本音と建前の分離やチェックポイントなどの手抜きである。そうすれば、また不祥事リスクの高い仕事に逆戻りだ。

組織全体での納得感がないとコンプライアンスは前に進まない性質を持っている。ブルーオーシャン戦略でいう「承認」がキーマンなどに必要なのである。

そこで組織の全体も部分も含めて、今日では経営上の重要な課題であることをまず認識することから始めないといけない。コンプライアンスの実践は現代社会で不可欠なのである。

その認識のトップから中間管理職や現場までの共有、それがコンプライアンスが本物になるかどうかのスタートであり「道標」である。それがない先に真のコンプライアンスの道はない。

2.コンプライアンスは適正な業務執行における内部統制の目的であり、不祥事リスクマネジメント実現に不可欠である

そもそも、コンプライアンスとは、その組織やメンバーに対する周りの要求や要請に従うことだ。広辞苑の第7版ではコンプライアンスの定義として「要求や命令に従うこと。特に企業が法令や社会規範・企業倫理を守ること。法令遵守。」とある。

その周りとは、ステークホルダーのことである。コンプライアンスの究極の目的はステークホルダーを裏切らない行動や経営のことなのだ。

この原点から出発する必要がある。

法令を遵守すること、法令でなくても社会のルールや常識、或いは道徳や倫理を守ることをステークホルダーは強く望んでいるであろう。

組織の利益が守られれば、ステークホルダーや社会の利益に反しても構わないと思っているであろうか。

また、組織のプラス若しくはマイナスのリスク選択において、ステークホルダーの意思に反しないようなリスク管理がしっかりとできていることを望まないであろうか。

不祥事が発生した時にも、一部の組織や企業のように、それを隠すことをステークホルダーは望んでいるであろうか。誠実(インテグリティ)な対応や謝罪を望まないであろうか。

豊田商事事件のように人を騙すことをしていて、組織で慟いている一人一人の職員は自分の仕事に対する誇りを持てるであろうか。組織が長い目で伸びていく実感が持てるであろうか。

私の20年間の企業経験においても嘘つく経営者はやがて追放されるか頓死するのだ。

3.コンプライアンスの対象に全てなるのか…刑罰による罰則のある法令、行政罰による罰則のある法令、罰則なくて義務付けある法令、罰則も義務付けもないが行政命令や公表のある法令、罰則も義務付けも命令等もないが努力義務を明記した法令、これら何もない宣言的法令、取締等も全くない法令、完全死文化した法令

(1)コンプライアンス・内部統制・リスク管理等に関する会社法の定め

第三四八条(業務の執行)
取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。
2取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
3前項の場合には、取締役は、次に掲げる事項についての決定を各取締役に委任することができない。
一 支配人の選任及び解任
二 支店の設置、移転及び廃止
三 第二百九十八条第一項各号(第三百二十五条において準用する場合を含む。)に掲げる事項
四 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
五 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
4大会社においては、取締役は、前項第四号に掲げる事項を決定しなければならない。

【会社法施行規則】第九八条
法第三百四十八条第三項第四号に規定する法務省令で定める体制は、当該株式会社における次に掲げる体制とする。
一 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
二 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
三 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
四 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
五 次に掲げる体制その他の当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

イ 当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者(ハ及びニにおいて「取締役等」という。)の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制

ロ 当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制

ハ 当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制

ニ 当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制

2取締役が二人以上ある株式会社である場合には、前項に規定する体制には、業務の決定が適正に行われることを確保するための体制を含むものとする。
3監査役設置会社以外の株式会社である場合には、第一項に規定する体制には、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとする。(以下略)

【会社法】第三六二条(取締役会の権限等)
取締役会は、すべての取締役で組織する。
2取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
3取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。
4取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
5大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。

【会社法施行規則】第一〇〇条(業務の適正を確保するための体制)
法第三百六十二条第四項第六号に規定する法務省令で定める体制は、当該株式会社における次に掲げる体制とする。
一 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
二 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
三 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
四 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
五 次に掲げる体制その他の当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

イ 当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者(ハ及びニにおいて「取締役等」という。)の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制

ロ 当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制

ハ 当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制

ニ 当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(以下略)

【指名委員会等設置会社】

指名委員会等設置会社においては、会社法は取締役会が決定しなければならない事項(会社法第416条3項)として、「執行役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制…」(会社法第416条1項1号ホ)を挙げる。

これは執行役の職務執行の監督に言及したものですが、委員会設置会社の取締役会は、執行役のみならず広く取締役の職務執行をも監督することから、「監査委員会の職務の遂行のために必要なものとして法務省令で定める事項」(会社法第416条1項1号口)を規定し、会社法における委員会設置会社の内部統制システムは、会社法第416条1項1号の口及びホの二つを根拠として構築されることになる。

つまり、監査機能のためだけの内部統制システムではなく、経営機能の執行のための内部統制システムでもある。

第四一六条(指名委員会等設置会社の取締役会の権限)
指名委員会等設置会社の取締役会は、第三百六十二条の規定にかかわらず、次に掲げる職務を行う。
一 次に掲げる事項その他指名委員会等設置会社の業務執行の決定

イ 経営の基本方針

ロ 監査委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項

ハ 執行役が二人以上ある場合における執行役の職務の分掌及び指揮命令の関係その他の執行役相互の関係に関する事項

ニ 次条第二項の規定による取締役会の招集の請求を受ける取締役

ホ 執行役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

二 執行役等の職務の執行の監督
2指名委員会等設置会社の取締役会は、前項第一号イからホまでに掲げる事項を決定しなければならない。
3指名委員会等設置会社の取締役会は、第一項各号に掲げる職務の執行を取締役に委任することができない。…

(2)内部統制に関する金融商品取引法の定め

第二四条の四の四(財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制の評価)
第二十四条第一項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社(第二十三条の三第四項の規定により当該有価証券報告書を提出した会社を含む。次項において同じ。)のうち、第二十四条第一項第一号に掲げる有価証券の発行者である会社その他の政令で定めるものは、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価した報告書(以下「内部統制報告書」という。)を有価証券報告書(同条第八項の規定により同項に規定する有価証券報告書等に代えて外国会社報告書を提出する場合にあつては、当該外国会社報告書)と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない。
2第二十四条第一項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社であつて、前項の規定により内部統制報告書を有価証券報告書と併せて提出しなければならない会社以外の会社(政令で定めるものを除く。)は、同項に規定する内部統制報告書を任意に提出することができる。
3前二項の規定は、第二十四条第五項において準用する同条第一項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社(第二十三条の三第四項の規定により当該有価証券報告書を提出した会社を含む。)のうち政令で定めるものについて準用する。〔後略〕
4内部統制報告書には、第一項に規定する内閣府令で定める体制に関する事項を記載した書類その他の書類で公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定めるものを添付しなければならない。(以下略)

第一九七条の二
次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。‥
二 第六条(第十二条、第二十三条の十二第一項、第二十四条第七項、第二十四条の二第三項、第二十四条の四の四第五項、第二十四条の四の五第二項、第二十四条の四の七第五項、‥の規定に違反した者
四 第二十七条の三第一項(第二十七条の二十二の二第二項において準用する場合を含む。)又は第二十七条の十第四項の規定による公告を行わない者
五 ‥第二十四条の四の四第一項(同条第三項(第二十七条において準用する場合を含む。)及び第二十七条において準用する場合を含む。)若しくは第四項(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による内部統制報告書若しくはその添付書類、‥を提出しない者
‥(以下略)

(3)内部統制に関する地方自治法の定め

第一五〇条[内部統制に関する方針の策定等]
都道府県知事及び第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市(以下この条において「指定都市」という。)の市長は、その担任する事務のうち次に掲げるものの管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針を定め、及びこれに基づき必要な体制を整備しなければならない。
一 財務に関する事務その他総務省令で定める事務
二 前号に掲げるもののほか、その管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを特に確保する必要がある事務として当該都道府県知事又は指定都市の市長が認めるもの
②市町村長(指定都市の市長を除く。第二号及び第四項において同じ。)は、その担任する事務のうち次に掲げるものの管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針を定め、及びこれに基づき必要な体制を整備するよう努めなければならない。
一 前項第一号に掲げる事務
二 前号に掲げるもののほか、その管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを特に確保する必要がある事務として当該市町村長が認めるもの
③都道府県知事又は市町村長は、第一項若しくは前項の方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
④都道府県知事、指定都市の市長及び第二項の方針を定めた市町村長(以下この条において「都道府県知事等」という。)は、毎会計年度少なくとも一回以上、総務省令で定めるところにより、第一項又は第二項の方針及びこれに基づき整備した体制について評価した報告書を作成しなければならない。
⑤都道府県知事等は、前項の報告書を監査委員の審査に付さなければならない。
⑥都道府県知事等は、前項の規定により監査委員の審査に付した報告書を監査委員の意見を付けて議会に提出しなければならない。
⑦前項の規定による意見の決定は、監査委員の合議によるものとする。
⑧都道府県知事等は、第六項の規定により議会に提出した報告書を公表しなければならない。
⑨前各項に定めるもののほか、第一項又は第二項の方針及びこれに基づき整備する体制に関し必要な事項は、総務省令で定める。〔本条の施行は、平三二・四・一〕

第一六〇条[内部統制に関する方針策定の規定の準用]
一部事務組合の管理者(第二百八十七条の三第二項の規定により管理者に代えて理事会を置く第二百八十五条の一部事務組合にあつては、理事会)又は広域連合の長(第二百九十一条の十三において準用する第二百八十七条の三第二項の規定により長に代えて理事会を置く広域連合にあつては、理事会)に係る第百五十条第一項又は第二項の方針及びこれに基づき整備する体制については、これらの者を市町村長(第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市の市長を除く。)とみなして、第百五十条第二項から第九項までの規定を準用する。〔本条の施行は、平三二・四・一〕

◆法の規定とマネジメントとしてのコンプライアンス・内部統制

これらの規定があるが、見出しの中では法規範力が中くらいで金商法以外は罰則もない。しかし、企業(や今後の地方公共団体)のマネジメントにおいては、判例実務において、賠償責任の判定に影響を与えていることを考える必要がある。日本システム技術事件最高裁判決参照(中川総合法務オフィスのこのサイトに全文ある)

しかし、組織の内部統制ではこれらの条文を振りかざして職員に強制すれば反発を食らうだけであることを肝に銘じなければならない。また、更なる「コンプラ疲れ」となろう。

そもそも会社法は学会主導でなくて官僚主導で作られた方でともかく文章力がない。これら条文を読んで具体的なイメージが湧かなくても已む得ない。会社の種類はいろいろで、食品会社、機械メーカー、衣料品販売会社、IT系、情報通信系、不動産会社、商社、銀行、保険会社など各々の会社リスクは様々なのであって、自己の会社にあったコンプライアンス態勢や内部統制の設計を具体的に考える必要がある。

4.三菱自工(MMC)の燃費不正事件‥‥具体的不祥事事例

(1)連続した三菱自動車での自動車製造・販売に関する不祥事

①三菱リコール隠し
2000年と2004年に発覚したリコール隠し、不適切な改修による火災事故。⇒映画「空飛ぶタイヤ」2018公開

②軽自動車エンジンのリコール問題
2005年のオイル漏れの不具合に関する三菱自動車・3G83エンジンに関する問題。

③燃費試験の不正事件
2016年、日産自動車との合弁会社であるNMKVで開発した軽自動車のJC08モード燃費試験について、燃費を実際よりも良く見せるため、国土交通省に虚偽のデータを提出していた。

該当の車両は、三菱ブランドでは「eKワゴン」「eKスペース」、日産ブランドでは「デイズ」「デイズルークス」であった。協業先に当たる日産自動車が、前記該当車の燃費を実際に測定したところ、届出値との乖離がみられ、燃費不正が発覚した。

実際よりも、5〜15%程度良い燃費を算出しており、軽自動車の業界基準であるJC08モードで30 km/1 L以上という水準に見せかけていた。該当車種は即日販売及び出荷停止となった。 さらに、軽自動車に限らず1991年(平成3年)以降に発売した全て車種において、違法な方法で燃費試験をしていたことも明らかになった。さらに1991年(平成3年)から25年間に渡り、10・15モード燃費で計測した燃費データの偽装をしていたことが発覚した。

(2)不正の方法は、

・「高速惰行法」と呼ばれる、違法な測定方法による走行抵抗の測定
・試験結果の中から「恣意的に低い値だけ」を抽出し、燃費値に有利な走行抵抗値を捏造
・成績表に記載すべき日付や天候の捏造
・走行試験により求めなければならないデータの机上計算による算出
・異なる車両の測定結果を恣意的に組み合わせたデータの算出

(3)これについては、詳細な第三者委員会の報告書がある。

【燃費不正問題に関する調査報告書】2016 年(平成 28 年)8 月 1 日 特別調査委員会(委員長 渡辺恵 一
委員 八重樫武久、委員 坂田吉郎、委員 吉野弦太)

一部引用すると、

「‥他部門や他部署の業務に関心を持たないということは、ひいては、他部門や他部署で不祥事が発生しても、そのことにも関心を持たないということになりかねない。当委員会は、MMC において、本件問題は開発本部の中の性能実験部及び認証試験グループにおける不祥事であり、経営陣や他部門あるいは開発本部内の他部署の問題ではないという意識が生じているのではないかということを非常に懸念している。改めて、ここに、本件問題は、性能実験部及び認証試験グループ、さらには開発本部だけの問題ではなく、経営陣をはじめとする MMC 全体の問題であることを強調しておきたい。‥‥

MMC にとって、最も大事な再発防止策は、そこで働く人たちの思いが一致することである。そのためには、MMC はなぜ自動車メーカーであったのか、なぜ自動車メーカーであり続けなければならないのか、どのような自動車を開発しこの世に送り出したいのか、そういうことをとことんまで話し合い、一つの共通する理念を見つけ出し、それに共鳴する者の集団になることである。自動車を製造して販売することは、単なる利益追求のツールではない。ユーザーも、開発する者も、製造する者も、販売する者も、みんながワクワクする自動車をこの世に送り出すこと、それこそが自動車メーカーとして忘れてはならない矜持なのではないか。
本件問題は、決して、MMC の特定の経営陣や特定の役職員が起こした問題ではない。開発本部、あるいは性能実験部や認証試験グループが起こした問題として矮小化してはいけない。MMC が起こした問題は、MMC が、会社として起こした問題であり、その責任を、すべての経営陣と役職員が自分の問題として受け止めるべきである。
以上を前提に、当委員会は、再発防止に向けた 5 つの指針を示す。繰り返しになるが、今の MMC にとって重要なのは、委員会の示す指針にただ従うのではなく、全社一丸となって、今の MMC にとって必要な再発防止策を自ら考え、それをどうすれば浸透させていくことができるかを、自ら模索して実行していくことである。そのような観点から、当委員会としては、個別・具体的な再発防止策を提示するのではなく、あくまでも、MMC が自ら再発防止策を考えるにあたって骨格となるべき指針を示すこととする。
① 開発プロセスの見直し
② 屋上屋を重ねる制度、組織、取組の見直し
③ 組織の閉鎖性やブラックボックス化を解消するための人事制度
④ 法規の趣旨を理解すること
⑤ 不正の発見と是正に向けた幅広い取組‥」

◆不祥事の連続する組織の特徴には共通性

以上のように、連続した不祥事が止まらないのは、上記に述べたように、一人一人がそのコンプライアンスの再構築にかかわって、納得感が出ていないことに最大の理由があるのではなかろうか。

大阪のO市役所で、お正月に小口金庫を開けてお金を盗む事件が起こって、小生がその再発防止の相談を受けたが、二度とこのような不正が起きないように屋上屋を重ねるチェック体制を取っていた。

「課長さん、これではやり過ぎでないですか、現場で不満も出ていませんか」

「そうなんですよ。それでは‥」

という話になった。

同じことが三菱自動車のコンプライアンスでも発生した。組織は人が動かすので、官庁であろうと民間であろうとそのポイントは変わらないであろう。