1.赤福餅の表示偽装事件
(1)内部通報
この不祥事は、従業員からの役所への内部通報がきっかけであった。「この夏に製造日と消費期限を偽ったことがある」と三重県の伊勢保健所に通報があったのだ。
それは、食品の表示に関するJAS法(日本農林規格等に関する法律、なお当時は農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)と食品衛生法違反の内容であった。
そこで、2007年9月19日、農政局・保健所による一斉立入調査が行われ、マスコミ報道で事実が公表されていった。
京都駅にも多数置かれているような著名な和菓子であったので、マスコミの報道もとても熱心であった。
(2)偽装内容
「まき直し」‥‥製造機一時冷凍保管した商品を解凍して出荷販売する際に、再包装紙に、解凍日を新たな製造年月日、解凍日を起点として計算した日を新たな消費期限として再表示して、出荷・販売する。
「製造年月日・消費期限表示の改ざん」‥‥店頭売れ残り品や未出荷品について、包装紙を破棄し、再包装紙に、新たな製造年月日・消費期限を表示する。
「先付け」‥‥製造の際に、最初から翌日の日付を製造年月日として表示する。
「不適切な原材料表示」‥‥加工食品の原材料については、使用重量順の表示が求められており、「砂糖、小豆、餅米」と表示すべきところ、「小豆、餅米、砂糖」と表示し、冬季には餅の硬化防止のためにトレハロース(添加物)を使用していたにもかかわらず、原材料として添加物を表示していなかった。
『「むきあん」・「むきもち」の再利用』‥‥店頭から回収した消費期限切れのものを含む赤福餅から餡と餅を分離して再利用する。
(3)行政処分
農林水産省から報告書提出の指示、保健所から食中毒等の健康被害事案を上回る無期限営業禁止処分を受け、会社の社会的信用を大きく落とした。
(4)赤福の対応
2007年11月8日、諮問委員会を設置し、諮問委員会の提言に従って再発防止策を策定のうえ実行し、諮問委員会は、2008年1月31日、赤福の再出発を承認した。
①不祥事原因
1)直接的原因として、
「残品なし」の経営方針によるプレッシャーや誤った「もったいない意識」から、「まき直し」や「先付け」を行ったこと、保存料を使わない生菓子で消費期限は夏期は製造年月日を含め2日間、冬期は3日間であること、当日製造/当日販売へのこだわりから、製造年月日を販売日と同日とする慣習が会社にあった。
また、生菓子としての商品価値を重視して、小豆でなく砂糖を最初に表示することや、添加物表示へのためらいがあった。
2)間接的原因として、
経営者への権力や情報の過度な集中、生産・販売が24時間ラインという1組織に集約されており、組織間での相互牽制が機能しづらい体制であったこと、
情報共有や上司と部下とのコミュニケーション不十分、
経営陣および従業員の食品衛生法やJAS法等に関する知識の欠如も含めたコンプライアンス態勢が全く出来ていなかった
②再発防止策
家族的経営の見直し、内部統制とコンプライアンスの強化、食品安全衛生の強化の3つの観点から、
経営体制改革として、内部監査室・コンプライアンス室・品質保証部・生産管理部・お客様相談室の新設、コンプライアンス・ホットラインの設置等
ソフト面の再発防止策・改善策として、
通常工程での供給能力の限界を超える営業活動・受注の禁止、各種マニュアルの整備、役職員に対するコンプライアンス・食品衛生に関する研修等、
ハード面の再発防止策・改善策として、
冷解凍設備の廃止、折箱への製造年月日の流印装置の導入等
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2.食のコンプライアンス
食の不祥事の発生への厳しい社会、殊にステークホルダーの目
従来の食品事故は、雪印集団食中毒事件のように、食品衛生管理の不備などが原因で食中毒が起こり、腹痛・下痢・発熱などの症状を示す多数の被害者を出して問題になった。
しかし、「不二家」による食品不祥事以降は、食品(製品)を食べた消責者からは食中毒で重度の病状が発生していないにもかかわらず、大きな社会問題となるようになった。
つまり、管理者の過剰なコスト意識や現場の経験や勘等からから消費期限切れの原材料を使用したり、賞味期限の改ざんなどを行っても、食中毒は生じないかもしれないが、これらは、現代社会の消費者の意識変化のもとでは、倫理的に許されない。
さらには、故意的に表示や製品仕様書と一致しない偽装原材料を使用し製造・販売していた場合は、企業の存亡を揺るがす厳しい批判にさらされる。
船場吉兆で行われていたお客の食べ残した料理の使い回しなどは、料金の二重取りでもあり、明らかな破廉恥刑法犯であり詐欺罪が成立する可能性が高い。
この船場吉兆等にみられる会社の常識は、現代社会では非常識であり、市場は存続を許さない。
つまり、いまや食品不祥事は「衛生管理」に加えて「品質管理-表示管理」も高い重要性を持つ時代になっているのである……。
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3.コンプライアンス研修は必須
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