まさか、このような不動産専門の大会社が、まんまと単純な詐欺に引っかかるものなのかと非常に驚く。持ち主でない者が持ち主であると偽ったことがなぜ見抜けなかったのか。
大阪地裁令和4年5月20日判決を読むと、土地を売っていないとして真の所有者と名乗ってきた内容証明郵便を取引の妨害と解釈したらしいが、それも裁判所は「経営判断原則」等から著しい不合理さはないとした。本当にそうなのか。
【事案】
大手ハウスメーカーが、真の所有者からC株式会社が後記の本件各不動産を買い受けたことを前提に、同社との間で本件各不動産を代金70億円で買い受ける旨の契約を締結し、平成29年4月24日、同社に手付金として14億円を支払い、更に同年6月1日、同社に対して残代金として約49億円を支払ったが、実際には本件各不動産の真の所有者はC株式会社に本件各不動産を譲渡しておらず、本件売買契約に係る取引は詐欺グループが仕組んだ架空の取引であった。
【判決】一部抜粋
‥取締役による決裁を経て不動産を購入するに至ったが、それによって当該会社に損害が生じた場合、かかる意思決定に関与した取締役が当該会社に対して善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うか否かについては、取締役に求められる上記の判断が、当該会社の経営状態や当該不動産の購入によって得られる利益等の種々の事情に基づく経営判断であることからすれば、取締役による当時の判断が取締役に委ねられた裁量の範囲に止まるものである限り、結果として会社に損害が生じたとしても、当該取締役が上記の責任を負うことはないと解され、当該取締役の地位や担当職務等を踏まえ、当該判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものである場合に は、かかる事実等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものでない限り、当該取締役が善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うことはないというべきである。
そして、会社によっては、その組織の規模等のために、各種の業務を種々の部署で分担し、その部署に知見や経験を集積して、権限も適宜委譲することによって、専門的知見を要する業務も含めて広汎な各種業務に効率的に対応することを可能とするものもあり、当該会社がこのような大規模で分業された組織形態となっている場合には、取締役がこれらの各部署で検討された結果を信頼してその経営上の判断をすることは、取締役に求められる役割という観点からみても、合理的なものということができる。
そうすると、当該会社が大規模で分業された組織形態となっている場合には、当該取締役の地位及び担当職務、その有する知識及び経験、当該案件との関わりの程度や当該案件に関して認識していた事情等を踏まえ、下部組織から提供された事実関係やその分析及び検討の結果に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような特段の事情のない限り、当該取締役が上記の事実等に基づいて判断したときは、その判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的なものということができる。
被告Aは、本件説明資料やFによる説明により、本件各不動産の所有者本人と称する者から売買をしていない旨の通知書が届いたことなどの事実等を認識するに至っている。
しかし、他方で、被告Aには、本件説明資料によって、旅券の原本確認や公証人による本人認証証書の原本確認等のほか司法書士による確認も含めて十分な本人確認が行われていたことを示す情報ももたらされて いた‥